しい。間もなく籠底から丸い栓が籠のなかへポンと飛びだした。オヤと思う間もなく、栓穴から鼠の顔が見えた。ミミーがニャーオと鳴いた。
 それを合図のように、栓穴から鼠が籠の中にとびだしてきた。一匹、二匹、……八匹。みんなで八匹、いずれも小さい仔鼠だった。その仔鼠は大慌てに慌てて、ワイトマンの仕掛けた皮袋のなかに飛びこんでしまった。
 これでレッドの仕掛けは分ったものだとワイトマンは得意だった。網の外に貼った木は中空であって網目より小さい孔があり、それに木の栓をかってあったのだった。八匹の仔鼠は、ミミーの匂いにたまらずなって、その栓を内側から押しあげて飛びだしてきたものに相違なかった。
 税関吏ワイトマンはレッドに八ルーブリの鼠税《そぜい》を申し渡した。レッドはしぶしぶそれを支払いながら、
「旦那、あんな仔鼠が八匹も籠の外に入っているなんて、手前は知らなかったんですよ、本当に……。あの仔鼠はきっと税関まで来る途中に生れたものに違いありませんぜ」
「莫迦を云え、親鼠が、わざわざ栓のかってある木箱の中に仔を生むものかい」
 とワイトマンは相手にしなかった。

 梅野十伍はこう書き終って大長息《だ
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