でラチェットさんに会ったら、丁度《ちょうど》いい機会だと思って、貴様が鼠を幾匹売りつけていったかと訊ねたんだ。すると今日は二十八匹だけ買いましたといっていたぞ。すると貴様は昨日どこかに鼠を八匹隠していたということになる。本官を愚弄するにも程がある。きょうは断乎として何処《どこ》から何処までも検べ上げたうえでないと通さんぞ」
ワイトマンは満面朱盆のように赭くなってレッド老人を睨みつけた。
レッド老人のポケットが怪しいというのでそこから調べ始めた。それから老人の衣服が一枚一枚脱がされた。とうとう老人は、寒い風のなかに素裸に剥がれてしまった。しかし鼠は只の一匹も出て来なかった。
「身体の方はいいとして。こんどは籠の方を調べる」
「もし旦那。もう服を着てもいいでしょうネ」
「いや、服を着ることはならん。どんなことをするか分ったものじゃないから、籠の方を調べ上げるまで、そのまま待って居れ。コラコラ、服のところからもっと離れて居れッ」
老人は陽にやけた幅の広い背中をブルブル慄わせながら、故郷の方を向いて立っていた。
税関吏ワイトマンは、椅子のうしろから、大きな皮袋をとり出した。それは今朝か
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