はそんな悪いことをするものですか。旦那がいけないと仰有《おっしゃ》ったので、鼠を一匹籠から出してポケットに入れました。それはちゃんと自分の家まで持ってかえって放してやりましたよ。嘘はいいませんや」
「そんな口には乗らんぞ。員数外の鼠を自分の家に放したなんて怪しいものだ」
「いえ、本当ですとも、だから今日はちゃんとこの籠の中に入れて来ました。ごらんなせえ、アレアレ、あの腹が減ったような顔つきをしているやつがそうです」
「もういい。鼠が腹が減ったらどんな顔をするか、儂にゃ見分けがつかん。――で、籠は改造して来たろうな」
「へえ、チャンと改造して来ました。籠を置いても、その下が汚れないように、これこのとおり籠の下半分を外から厚い板でもって囲んであります。これなら籠の中で鼠が腸|加答児《カタル》をやっても大丈夫です」
「うむ、なるほど。これなら卓子の上も汚れずに済むというものじゃ。しかし随分部の厚い板を使ったものじゃ。勿体《もったい》ないじゃないか。――ところできょうの員数は?――」
「員数はやはり二十匹です。きょうは員数外なしで、正確に籠の中には二十匹居ます。どうかお検《しら》べなすって」

前へ 次へ
全41ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング