た。ただ彼の親しい友人のAというのが、よくこんな赭い熟れきったような顔を彼の前に現わして、「ああ昨夜《ゆうべ》は近頃になく呑みすぎちゃった。きょうはフラフラで睡い睡い」と慨《なげ》くのであった。梅野十伍は、そういうときの友人Aの容態が所謂《いわゆる》二日酔というのだろうと独断した。だから白国官吏のワイトマンは迷惑にも作者の友人Aの酔態を真似しなければならなかった)
「旦那、そういわないで見ておくんなさい。儂《わし》は生れつき胡魔化《ごまか》すのが嫌いでネ、なるべくこうしてお手隙の午前中に伺って、品物をひとつ悠《ゆっ》くり念入りに調べてお貰い申してえとねえ旦那、このレッドはいつもそう思っているんですぜ」
「フフン、笑わせるない。生れつき正直だなんて云う奴に本当に正直な奴が居た験《ため》しがない。ことに貴様は、ちかごろここへ現れたばっかりだが、その面構えは本国政府からチャンと注意人物報告書として本官のところへ知らせてきてあるのだ。どうだ驚いたか、胡魔化してみろ、こんどは裁判ぬきの銃殺だぞ」
「エヘヘ、御冗談を、儂はそんな注意人物なんて大した代物じゃありませんや、ただ鼠を捕えてきては、この向
前へ 次へ
全41ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング