うのラチェットさんに買って貰ってるばかりなんで」
「うむ、ラチェットという猶太人は、鼠をそんなに買いこんで、何にしようというんだ」
「それァね旦那、これは大秘密でございますが、この鼠の肉が近頃盛んにソーセージになるらしいんですよ」
「えッ、ソーセージ?」
 税官吏ワイトマンはそれを聞くと妙な顔をして胃袋を抑えた。実は朝起きぬけに、ソーセージを肴《さかな》にして迎い酒を二、三本やったのだ。「なんだ、彼奴《きゃつ》はソーセージを鼠の肉で作っているのか。どうも怪《け》しからん奴《やつ》じゃ」
「いやァ旦那、そう云うけれども、鼠の肉を混ぜたソーセージと来た日にゃ、とても味がいいのですぜ。ヤポン国では、鼠のテンプラといって賞味してるそうですぜ。だから鼠の肉入りのソーセージは、なかなか値段が高いのです。ちょっとこちとらの手には届きませんや」
「手に届かんといって――一本|幾何《いくら》ぐらいだ。オイ正直に応えろ」
「そうですね。一本五ルーブリは取られますか」
「五ルーブリ? ああそうか、よしよし。それくらいはするじゃろう」と、税関吏ワイトマンはホット胸をなぜ下ろし「さあさあ、お前の持ちこもうという
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