ァ。――」
レッドの銅鑼ごえに(この前にドラを銅羅と書いたのは誤り。どうもすこし変だと思って今辞書を引いてみると、ラの字は金扁《かねへん》があるのが正しいのであった。小説家商売になるといちいち字を覚えるだけでもたいへん骨の折れることだった)――そのレッドの銅鑼ごえに奥の方から役人ワイトマンが佩剣《はいけん》のベルトを腰に締めつけながら、睡むそうな顔を現した。(と書くと、この国境の税関には余り事件もなく、かなり平和な呑気な関所であることが読者に通じるだろうと、作者梅野十伍はそう思いながら、こう書いたのである)
「なあンだ、レッドか。また鼠の籠を持ちこもうてえんだろう。あんまり朝っぱらから来るなよ。鼠なんか夕方で沢山だ」
ワイトマンはいささか二日酔の体で、日頃赭い顔がさらに紅さを増して熟れすぎたトマトのようになっている。(この件は、作者梅野十伍に自信がなかった。彼は生れつきアルコールに合わない体質を持って居り、いまだ嘗《かつ》て酒杯《さかずき》をつづけて三杯と傾けたことがない。だから二日酔がどんな気持のものだかよく知らず、また二日酔になった患者はどんな顔をしているか正確なる知識はなかっ
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