いてみることにしよう、と梅野は決心した。
 まず道具立を考えるのにここは紅白両国の国境である。あまり広くない道路が両国を接《つな》いでいる。その道のまん中あたりに、アスファルトの路面に真鍮《しんちゅう》の大きな鋲《びょう》を植えこんで、両国国境線がひと目で分るようになっている。夜になるとこの鋲は見えなくなるから、代りに道の両側に信号灯が点くような仕掛けになっている。
 その国境線を間に挿《はさ》んで両側に、それぞれの国の材料で作ったそれぞれの形をした踏切の腕木のようなものがある。国境線上を通過する者があるたびに、この二つの腕木がグッと上にあがるのだった。国境越えの人々は、その腕木の下を潜って、相手国のうちに足を入れ、そしてそこに店を開いて待ちうけている税関の役人の前にいって国境通過を願いいで、そして持ち込むべき荷物を検査してもらうのである。それが済めば、そこで税関前の小門から、相手国内にズカズカ這入《はい》ってゆくことを許されるのである。
 まあ道具立はそのくらいにして置いて、ここに紅国人の有名なる密輸入の名手レッド老人を登場させることにする。
「また一つ、頼みますよ。ねえ、税関の旦那
前へ 次へ
全41ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング