。――」
と、梅ヶ枝女史が叫ぶよりも一歩お先へ、女史の隣りの夫人(名前をつけて置くのを忘れた)が、
「それは十四子さんのよ」
と叫んだ。女史はジロリと横目で睨んだ。
「ああ十四子さんなの。アラとてもいい景品ですわよ。今日の景品のなかで、一番素敵な貴重なものだわよ」
と、幹事の谷夫人が、話の割合には薄っぺらな白い西洋封筒に入ったものを持って梅ヶ枝女史の前に飛んできた。女史は少し面映《おもは》ゆげに、プラチナの腕輪の嵌《はま》った手を伸ばしてその白い西洋封筒を受けとりながら――これは十円紙幣かな――とドキッとした。
森幹事が向うの方から大きな声で披露をした。
「鼠の顔、鼠の顔。当った方は、目下読書界に白熱的人気の焦点にある新進女流探偵小説家(新進だなんて失礼ナ、既成の第一線作家だわよ――と、これは、梅ヶ枝女史の憤懣《ふんまん》である)の梅ヶ枝十四子さん。景品はァ――どうか封筒からお出しになって下さい――ターキーのプロマイド! そのわけは、娘々《ニャンニャン》が大騒ぎ。――」
というのであるが、この福引の方が「鼠の顔とかけてなんと解く。臥竜梅と解く。その心は幹《ミッキー》よりも花《
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