頃の罪汚れなき生活を嘉《よみ》したまい、きっと素晴らしい景品を恵みたまうから、今に見ててごらんなさい」
「まあ、図々《ずうずう》しいのネ、近頃の処女は――」
(探偵作家梅野十伍は罪汚れ多き某夫人に代ってニヤリと笑い、ここでまたペンを置いた。そして紙巻煙草《あかつき》に手を出した)
幹事森博士夫人と谷少佐夫人とによって福引が読みあげられ、それぞれ奇抜な景品が授与されていった。そのたびに、花のような夫人たち――たち[#「たち」に傍点]と書いたのはなかに『処女』も一人加わっていることを示す(探偵作家は万事この調子で、些細なることもおろそかにせず、チャンと数学的正確さをもって記述してゆくよう、習慣づけられているものである)――そこで夫人たちが女生徒時代の昔に帰ってゲラゲラとワンタンのように笑うのだった。(ワンタンのように――は誰かの名文句を失敬したものである。作家というものは、それくらいの気転が利《き》かなきゃ駄目だと、梅野十伍は思っている。しかし一々こう註釈が多くては物語が進行しない。今後は黙ってズンズン進行することに方針変更)
いよいよ「鼠の顔」が高らかに読みあげられた。
「あたくしよ
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