序になる。そこに逆ハ必ズシモ真ナラズが侵入する余地があるのである。
――と、かれ梅野十伍は二、三枚の原稿用紙を右のように汚したが、これは探偵小説じゃないようだ。けっきょく探偵小説論の小乗的解析でしかないから、こんなものを編集局へさし出すわけには行かない。
彼は折角書いた原稿用紙を鷲づかみにすると、べりべりと破いて、机の下の屑籠のなかにポイと捨てた。始めからまた出直しの已《や》むなき仕儀とはなった。しかし彼は、さっきまでのように、時計の指針をあまり気にしなくなった。ソロソロ小説書きの度胸が据わってきたのであろう。
――女流探偵作家|梅ヶ枝十四子《うめがえとしこ》は、先日女学校の同窓会に招ばれていって、一本の福引を引かされた。それを開いてみると、沂水流《ぎすいりゅう》の達筆で「鼠の顔」と認めてあった。
「十四子さん、貴女《あなた》の福引はどんなの、ね、内緒で見せてごらんなさいよ」
「――エエわたくしのはホラ『鼠の顔』てえのよ」
「アラ『鼠の顔』ですって、アラ本当ね。まあ面白い題だわ、なにが当るんでしょうネ」
「さあ、わたくしは皆さんと違ってまだチョンガーなんだから、天帝もわたくしの日
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