鼻》が低い」の場合より出来がよろしい。
 その理由は、この福引の「鼠の顔(景品はターキーのプロマイド)娘々が大騒ぎ」の方が前者に比較して、ずっと卑近にして、而《しか》も相当今日の話題的材料を持ってきたところが勝《すぐ》れているのである。しかも娘々は、やや高級ではあるけれど日満両帝国一体となっている今日、日本人にとっては盟邦に於ける最も明朗なる行事として娘々廟の娘々まつりを知っているものが少くないのであって、それ位の高級さは却《かえ》ってこの福引を更に高雅なものに引き上げる。
 これがそのまま、探偵小説作法にも引きうつして、云えるのであって、探偵小説の謎も能《あた》うかぎり卑近な常識的な材料を使い、その推理の難易程度もこの辺の中庸に停《とど》め、且《か》つその謎の答が相当センセイショナルなものを……。

「これはいかんうっかりしていて、また探偵小説論を書いていた。森幹事が福引を披露して、『――そのわけは、娘々が大騒ぎ』のところで原稿の文章を切ることにして、そのあとの『というのであるが』以下『センセイショナルなものを……』までを削除しなければいかん」
 と、梅野十伍は苦笑しながら、十行ばか
前へ 次へ
全41ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング