知らんが、首都をそのようにたびたび変えることは面白くない。第一そうたびたび首都が変って朝《あした》に南京を出で、夕《ゆうべ》西にゆくでは、経費もかかってたまるまい。贅沢きわまるそして愚劣至極の政府の悪趣味といわんければならん」
「いえ贅沢とか趣味とかいう問題ではないのです」
 と、トマト氏は今にも泣きだしそうな顔であった。
「――つまり、そ、それにつきまして、楊《ヤン》博士をお迎えにあがりましたような次第でございまして――」
 と、彼は懐中から恭々しく、大きな封書をとりだして鞠窮如《きくきゅうじょ》として博士に捧呈した。
 楊《ヤン》博士は、釣糸をトマト氏に預けて、馬の腹がけのように大きい書面をひらいて、その中に顔を埋めた。
 そこには、墨くろぐろと、次のような文章が返り点のついていない漢文で認めてあった。
 ――支那大陸紀元八十万一年重陽の佳日、中国軍政府最高主席委員長チャンスカヤ・カイモヴィッチ・シャノフ恐惶謹言頓首々々恭々しく曰す。こいねがわくば楊《ヤン》大先生の降魔征神の大科学力をもって、古今独歩未曾有の海戦新兵器を考案せられ、よってもって我が沿岸を親しく下り行きて、軍船を悉く
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