、化石になりきっていた。
「もし楊《ヤン》博士、猛印からのお迎えでありますぞ」
「猛印といえば――」と博士はこのときやおら顔をあげて、「猛印といえば、北京の南西二五〇〇キロメートル、また南京の西南西二〇〇〇キロメートル、雲南省の遍都で、インド王国に間近いところではないか。雲南などへ迎えられては、わしは迷惑この上なしだ」
「いや博士、猛印こそわが中国の首都でありますぞ」
「わしを愚弄してはいかん。中国の首都がインドとわずか山一つを距《へだ》たった雲南の国境にあってたまるものか。第一そんな不便な土地に、都が置けるかというのだ。この屏風岩から下へとびこんで、頭など冷やしてはどうか」
「いやそれが博士、あなたのお間違いですよ。あなたこの頃、ニュース映画をごらんになりませんね。首都が北京だったのは五、六年前です。それから南京に都はうつり――」
「それは知っとる。首都は南京だろう」
「いえ、ところがそれ以来、また遷都いたしまして、今日は西に、明日はまたさらに西にと遷都して、もう何回目になりますか忘れましたが、とにかく目下のところ中国の首都は、さっき申した猛印にありますのです」
「わしは地理学をよく
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