ているじゃないか」
「金環《きんかん》が宝物だといってはいないじゃないか。この環の中に入れてあったものを返せ」
「なにも入っていなかったじゃないか」
「嘘をつけ。たしかに入っていた」
「なにをいうんだ。それじゃ一体何が入っていたというんだ」
「毛だ。毛が一本入っていた」
「毛だって? はッはッはッ。そうだ、ちぢれた毛が一本入ってたナ。その毛が何だ。毛なんてものは掃《は》くほどあるじゃないか」
「その毛を返せ。あれは世界の宝物なのだ。十萬メートルの高空で採取《さいしゅ》した珍らしい毛なんだ。それを材料にして調べると、他の遊星《ゆうせい》の生物のことがよく分るはずなんだ。世界に只一本の毛なんだ。これ、冗談はあとにして、その毛をかえせ」
「この『消身法』の実験装置ととりかえならネ」
「うむ、そんなことはいやだ」と楊博士は首をふった。
「ええい面倒くさい。話はこれだ」と、首領ウルスキーは懐中からピストルを出して、博士の胸もとにつきつけ「折角《せっかく》かえしてやろうというのに、要《い》らなきゃ黄金の環もこっちへ貰って置く。おいワーニャ。お前はその『消身法』の硝子壜《ガラスびん》を貰ってゆけ」

前へ 次へ
全19ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング