「へへえ、この気味のわるい硝子壜をですかい」
そのとき卓子の下から濛々《もうもう》と煙がふきだした。
「ほら、博士の奥の手が始まった。早く引きあげないと、またこの前のようにひどい目に遭《あ》う、気をつけろ」
首領の怒鳴っているうちに隙《すき》があったものか、博士はヒラリと身を翻《ひるがえ》して、衝立のうしろに逃げこんだ。
「どこへ逃げる。こいつ、待てッ」
とウルスキーは博士を衝立のうしろに追いこんだ。だが、彼は衝立のうしろに、何にもない空間を発見したに過ぎなかった。そこへ逃げこんだにちがいない博士の姿がまるで煙のように消えてしまったのである。
「ワーニャ、硝子壜をもってすぐ逃げろ。ぐずぐずしていると、生命が危い」
ワーニャは決心して硝子壜を抱《かか》えあげた。壜はわりあいに重かった。
二人は出口の方へ向って走りだした。
とたんにガチャンと大きな音がした。
「失敗《しま》った」
とワーニャが叫んだが、もう遅かった。彼の抱えていた硝子壜は床の上に墜《お》ちて、粉々《こなごな》になった。
二人はワッといって、外に飛びだした。
どっちへ行ってよいかわからぬ四馬路《すまろ》の濃
前へ
次へ
全19ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング