れたとでも思ったものか、腹立たしそうに叫んだ。
「蠅が二匹、たしかに見えるというのだナ。それでよしよし」楊博士は軽く肯《うなず》き「では暫く、この壜の中の蠅をよく見ておれ。よく見ておれば、今になにか異変を発見するじゃろう。そのときは、儂《わし》にいってくれ」
「なにか異変を、だって。うむ、ごま化《か》されるものか」
二人は顔を硝子壜のそばによせ、目玉をグルグルさせて、壜の中をとびまわる蠅の行方《ゆくえ》を追いかけていた。
そのうちに二人は、
「オヤ、――」
と叫んだ。つづいて間もなく、
「オヤオヤ。これは変だ」
と愕《おどろ》きの声をあげた。
「なにか起ったかナ」
「うむ。蠅が二匹とも、どこかに行ってしまった」
「蠅の姿が見えなくなったというわけだナ。どこへも行けやせんじゃないか。密閉した壜の中だ。どこへ行けよう。第一壜に耳をあてて、よく聞いてみるがいい。蠅はたしかに壜の中を飛んでいるのだ。翅《はね》の音が聞えるにちがいない」
二人は半信半疑で、大きな硝子壜に耳をつけてみた。
「なるほど、たしかに翅がブーンブーン唸《うな》っている。それにも拘《かかわ》らず蠅の姿が見えない。こ
前へ
次へ
全19ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング