蔭を見ておけと合図《あいず》をした。
 ワーニャは楊博士が卓子の上の硝子壜に気をとられている間に、衝立のうしろを素早く覗いてみたが、そこには仕切られた土間と壁があるばかりで、外に何物も見えなかった。
 ウルスキーはワーニャの答に、安心の色を見せた。怪博士|楊羽《ようう》の魔術?には、これまでに幾度も苦い目にあっていたから。
「さあ、この中を見るがいい。お前たちには何が見えるかナ」
 二人の訪問客は、博士の指す硝子壜のなかを覗きこんだが、中は正《まさ》しく空《から》っぽで、なにも見えなかった。
「なにもないじゃないか」
「そうだ。それでいい」と博士は髭に蔽《おお》われた大きな口をひんまげて薄笑いをし「では待って居《お》れ。こうすると何か見えるかナ」
 と、博士は壜の胴中《どうなか》についている蓋をひらいて、懐《ふところ》から出した小さな紙袋から二匹の蠅《はえ》をポンポンと壜の中に追いやり、そして蓋を締めた。
 二匹の蠅はブンブン唸《うな》りながら、壜のなかを勢《いきおい》よく飛びまわっていた。
「なアんだ。蠅を入れたのじゃないか。それが見えなくてどうする」
 ウルスキーは莫迦《ばか》にさ
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