南京路《ナンキンろ》の往来では、俄《にわ》かに騒ぎがはじまった。ショーウインドーの中で、半裸体《はんらたい》になった紳士が、いかがわしい動作を通行人に見せているというので、たいへんな人だかりだった。
 そのうちに、何だあれは行方不明のウルランド氏ではないかといい出した者があり、それは一大事だと騒ぎはますます大きくなっていった。これは楊博士が、消身装置の廻折鏡を反対に廻したために、今まで見えていたショーウインドー外《がい》の光景が見えなくなり、その代り今まで外から見えなかったショーウインドーの内部が明らさまに見えるようになったのだった。そういうこととはしらず、ショーウインドーの中のウルランド氏は悠々と公衆の面前で用をたしている。市民は愕《おどろ》きかつ呆《あき》れ、やがてはとめどもなく笑いだした。なんという無恥《むち》であろうか。
 警官隊が駈けつけたが、そのウルランド氏を堅固《けんご》な硝子函《ガラスばこ》の中から救いだすには、まる一日かかった。二枚の板硝子の間に仕掛けられていた楊博士の消身装置は、その救助作業のうちに壊《こわ》されてしまった。
 救い出されたウルランド氏は、転《ころ》
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