んでも只《ただ》は起きない覚悟で、遭難記を自分の大東新報に掲《かか》げたが、それは市民たちの侮蔑《ぶべつ》を買っただけであった。社交界にウルランド氏が現れたときは、さすがの貴婦人たちも、一せいに背中を向けた。誰も彼もニュース映画によってウルランド氏の生理現象を詳《つまびら》かに見ていたので、そういう人物と握手しようとは、誰一人として思わなかったのである。
 ここに於《おい》て楊博士の復讐《ふくしゅう》は、ようやく成ったようであるが、その後、この広い上海《シャンハイ》のなかに博士の姿を見た者は只の一人もなかった。



底本:「海野十三全集 第7巻 地球要塞」三一書房
   1990(平成2)年4月30日第1版第1刷発行
入力:tatsuki
校正:浅原庸子
2002年10月21日作成
2003年5月11日修正
青空文庫作成ファイル:
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