靴をぬぎ揃えてこっちのベッドに長々と寝た。――それだけは推理で分っとる」
とロッジ部長は得意そうに、あたりを見廻したが、事実ウルランド氏の靴も上着も、そこには見えなかったのである。社長は服装ごと、どこかに姿を消してしまったのである。
ウルランド氏の失踪事件《しっそうじけん》は、たちまち上海《シャンハイ》の全市に知れわたった。
「大東新報社長、白昼《はくちゅう》レーキス・ホテルの密室内に行方不明となる!」
「ウルランド氏の失踪。ギャング団ウルスキー一味の仕業《しわざ》と見て、目下手配中!」
などと、新聞やラジオでは、刻々にその捜索模様を報道して、町の人気をあおりたてた。騒ぎは、ますます大きくなってゆく。
工部局の活動、秘密警察の協力、素人探偵の競演――などと、物すごいウルランド氏捜索の手がつくされたが、ウルランド氏の消息は更にわからなかった。
今日こそは、明日こそはと、市民たちもウルランド氏の発見を期待していたが、すべては空《むな》しく外《はず》れてしまい、やがて二週間の日が流れた。ウルランド氏の生命は、誰の目にも、まず絶望と見られた。
ところがここに一人、ウルランド氏の生命
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