かった。十分すぎに、例の火星獣の毛の原稿を抱《かか》えて待っていた次長が、遂に待ちかねてホテルに電話をかけた。すると意外なる話にぶつかった。
「ウルランド氏の姿が、貸切りの休憩室に見えなくなっているんです。部屋には内側からチャンと鍵がかかっているのに、どうされたんでしょうか。これから警務部へ電話をして、警官に来て貰おうと思っていたところです」
「なんでもいいから早く社長を探してくれ。急ぎの原稿があるんだ。社長に早く見せないと、乃公《おれ》は馘《くび》になるんだ」
そういった次長も、上衣《うわぎ》をつかむが早いかすぐエレベーターの方に駛《はし》っていた。社長を至急探しださねばならない。
工部局の警官隊がロッジ部長に引率《いんそつ》されて、レーキス・ホテルにのりこんできた。休憩室の扉《ドア》は、華《はなや》かに外からうち壊《こわ》された。一行は、誰もいない室内に入ったときに、なんだか低い唸《うな》り声《ごえ》を聞いたように思ったが、室内を探してみると、猫一匹いなかった。全くの空室《あきしつ》だった。
「いいかね。ウルランド氏は室内に入ると、内側から鍵をかけて、上衣をこの椅子の上にかけ、
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