でよびだせ」
「でも首領」とワーニャは急に不安な顔をして「そいつは大きに考え物ですぜ。あの宝物の毛をなくしたことについて博士は千萬ドルの紙幣を焼かれたようにブルブル慄《ふる》えて怒っていましたぜ。あいつはきっと復讐せずにいないでしょう。ああそれなのに、あの火星獣《かせいじゅう》の毛のことをうちの新聞に素っぱぬくなんて、彼奴の憤慨《ふんがい》の火に油を注《そそ》ぐようなものですよ。そしてもしか、社長がギャングの大将だと嗅《か》ぎつけられてごらんなさい。そのときは新聞の読者は半分以下に減《へ》りますよ。これは考えなおしたがいい」
「なにを臆病《おくびょう》なことをいいだすんだ。こんな素晴らしいチャンスを逃がすなんてえことが出来ると思うかい。引込んでいろ」
「だって首領。あの楊博士と来た日にゃ……」
「うるさい。黙ってろ」
ウルスキーは肘掛椅子《ひじかけいす》からバネ人形のようにとびあがって、喫いかけの葉巻を力一杯|床《ゆか》にたたきつけた。
その夜は無事に過ぎた。
次の日のお昼休みにレーキス・ホテルに出かけたウルスキーならぬ大東新報社長ウルランド氏は、午後二時になっても社へ戻ってこな
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