の安全なることを知っている人物があった。それは当のウルランド氏そのひとに外《ほか》ならなかった。
彼は、もうかれこれ十日あまりも、町の騒擾《そうじょう》を見てくらしているのだった。彼は、ショーウインドーらしき大きな硝子《ガラス》をとおして、一部始終を眺めて暮らしているのだった。彼の前には、紛《まぎ》れもなく賑《にぎや》かな上海《シャンハイ》、南京路《ナンキンろ》の雑沓《ざっとう》が展開しているのだった。それも暁《あかつき》の南京路の光景から、明《あけ》る陽《ひ》をうけた繁華《はんか》な時間の光景から、やがて陽は西に傾《かたむ》き夜の幕《とばり》が降りて、いよいよ夜の全世界と化《か》した光景、さては夜も更《ふ》けて酔漢《すいかん》と、彼の手下どもが徘徊《はいかい》する深夜の光景に至るまで、大小洩《だいしょうも》れなく、南京路の街頭を見つくし見飽《みあ》きているのだった。
どうしたことからこうなったのか、彼には始まりがよく分らなかった。
ともかくも、捕虜《ほりょ》になったなと気がついたときは、今から十日ほど前のことだ。彼はこのショーウインドーの中に長々と伸びていたのだ。
それからこ
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