蜂谷たちに知らせると、急いで階段をのぼった。上《あが》ってみると、なるほど砂中《さちゅう》からニュウと出ている銀色の板――。
「おお、これは宇宙艇じゃないか」
 それでは、猿田の操縦していった新宇宙艇が、墜落《ついらく》してきたのであろうか。一行は非常な興味をもって、これを砂中《さちゅう》から掘りだしてみた。
「ウンこれは違う。新宇宙艇ではない」
 と蜂谷学士は首を左右にふった。
「オヤオヤ」突然|横合《よこあい》から叫んだのは天津飛行士だった。「これは愕《おどろ》いた。奇蹟中の奇蹟! 六角隊長と私とをこの土地に残して、空に飛びだした第一の宇宙艇だ」


   恐ろしき違算《いさん》


「あらマア、不思議なことネ」
「全く貴女がたの場合と同じような事件だったので。そのときも一行中に犬吠《いぬぼえ》という慾の深い男がいて、月の世界の黄金塊《おうごんかい》をギッシリ積むと、隊長と私とを残して置いて、単身《たんしん》飛びだしたんです。私は犬吠が地球にかえったとばかり思っていたのに、これは実に不思議だ。どれ内部を調べてみれば何か分るだろう」
 蜂谷にミドリ、それに進も手をかして扉《ドア》をこじ明けると、内部を調べてみた。すると果《はた》せるかな、その中には慾深い犬吠が、黄金塊《おうごんかい》を抱《いだ》いて餓死《がし》しているのを発見した。
 ところで喜んだのは一行だった。思いがけなく、旧《ふる》い型《かた》ではあるが宇宙艇が手に入ったので、地球へ帰る一縷《いちる》の望みができてきた。調べてみると、何という幸《さいわ》いだろう。燃料はかなり十分に貯《たくわ》えられていた。
「おお、神様、お蔭さまで地球へ帰れます」
 一行はこの吉報《きっぽう》をきくと、躍りあがって喜んだ。だが何《ど》うしてこの宇宙艇が、月の世界に落ちて来たものだか、まだこのときは一向《いっこう》に解せない謎だった。
 宇宙艇の修理は、僅かの日数で、一とおり出来上った。そこでこれに乗組む人の顔ぶれが問題になった。いろいろ議論はあったが、ついに、少し無理ではあったが、重病の六角博士を除いて、他の五人――つまり新宇宙艇の乗組員の中で、逃亡《とうぼう》した猿田飛行士の代りにミドリの兄の天津飛行士を加えただけで、あとはそのままの顔ぶれでもって、いよいよ地球へ向け帰還《きかん》の途《と》につくことになった。そして博士
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