は、日を改《あらた》めて迎えに来ようということになった。
修理された古い宇宙艇が、すこしばかりの金塊《きんかい》を土産に、「危難《きなん》の海」近くコンドルセを出発したのは、月世界に到着してから十日後のことだった。
「さあいよいよ地球へ帰れるぞ」天津飛行士はエビス顔の喜び様《よう》だった。
「さあ、月世界よ、さよなら」
「さよなら、また訪問しますわ」
やはり艇長の役を引うけた蜂谷学士はミドリ嬢と窓に顔をならべて、荒涼《こうりょう》たる山岳地帯のうちつづく月世界に暇乞《いとまごい》をした。
「おじさん、今度は大威張《おおいば》りで帰れるネ」
「そうでもないよ、進君」
佐々と進少年はすっかり仲よしになってニコニコ笑っていた。
「出航!」
命令|一下《いっか》、艇は静かに離陸していった。
「お父さま。いいお医者さまを連れて、お迎えに来るまでぜひ生きていて下さーい」
進少年は窓から、動く大地に祈った。
ロケット船宇宙艇のスピードは、だんだんと早くなった。艇内のエンジンは気持よく動き、各員はその持ち場を守ってよく働いた。佐々《さっさ》記者は、今度は食料品係を仰《おお》せつかってまめまめしく立ち働いていた。
「おう、ミドリさん、どうも困ったことができた」
「まアいやですわ、艇長さん。何《ど》うしたのですの」
「この旧型《きゅうがた》の宇宙艇は、スピードの割にとても燃料を喰うんです。このままで行くと、三十万キロは行けますが、あと八万キロが全く動けない勘定《かんじょう》です。これは地球へ帰れないことになった。ああ……」
当分二人だけの心配にして置いたが、出発後三日目には、どうしても公表しないわけにはゆかなくなった。
この公表に対しては、一同は俄《にわ》かに面《おもて》を曇《くも》らせた。楽しい帰還の旅が、にわかに不安の旅に変ってしまった。
「一体どうすりゃいいんです。艇長に万事《ばんじ》一任《いちにん》しますよ」
なんでも艇長の命令どおりにやるというのだった。そこで蜂谷はついに苦しい決心をしなければならなかった。
「皆さん。この上は誰か一人、この艇から下《お》りて頂《いただ》かねばなりません。それで公平のために抽籤《ちゅうせん》をします。赤い印のある籤《くじ》を引いた方は、貴《とうと》い犠牲《ぎせい》となって、この窓から飛び出して頂きます」一同は顔を見合わせた。
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