先に地上に下ろすと、私の隙《すき》をうかがってドンとピストルで撃ったのです。今だから云いますが、あの人は恐《おそ》ろしい殺人犯ですよ。私が砧村《きぬたむら》にある艇内に忍びこむ前のことでしたが、小屋の前に立っていた人(羽沢飛行士のこと)をピストルで撃ち、待たせてあった自動車にのって逃げるのをハッキリ見て知っているのです。全く恐ろしい人です」
「ああ、それで分ったわ。猿田は月世界《つきのせかい》の黄金《おうごん》目あてに是非この探険隊に加わりたくて、羽沢さんを殺したんですわ。そして何喰わぬ顔をして、参加を申し出たのよ。それとも知らず、あたしが参加を許したりして……ああどうしましょう。もう地球へは戻れなくなったわ。ああ……」
 四人は顔を見合わせて、深い絶望に陥《おちい》った。


   黄金《おうごん》階段を下る


 さすがに艇長だけあって、蜂谷学士は決心を定《き》めて顔をあげた。
「さあ、地球へ帰れないなんて、始めから決心していたことで、今更《いまさら》歎《なげ》いても仕方がないことですよ。それよりも、こうなったら探険隊の仕事をすこしでもして置きたいと思いますが、どうです。私は例の階段を下に下りてみようと思うのです。何だかあの下には、生物が住んでいるような気がしてならないのです。さあ皆さん、元気を出して下さい」
 艇長の言葉はよく分った。死ぬ覚悟《かくご》さえつけば、何の恐るるところもない。そこで三人は負傷している佐々記者を担《かつ》いで、黄金の階段の方へ引返していったのだった。
 するとどうしたことだろう。さっきは誰もいなかったと思うのに、黄金階段の上には紛《まぎ》れもなく人間の形をした者が一人立っていて、しきりにこちらを見ていたが、やがて明瞭《めいりょう》な日本語で、
「おお、そこにいるのは、妹のミドリではないか」
 愕《おどろ》いたのはミドリだった。
「……ああら、兄《にい》さま。まア……」
 と叫ぶなり、彼女は死んだものとばかり思っていた兄の天津《あまつ》飛行士の胸にワッとばかり縋《すが》りついた。
 その場の事情を悟《さと》るなり、進少年はにわかに興奮して、
「おじさん。僕の父はどこに居ます。早く教えて下さい」
「おお、あなたのお父さんとは……」
「それ六角博士《ろっかくはかせ》ですよ。僕は六角進《ろっかくすすむ》なんです!」
「ナニ六角進君。ああそうで
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