きていて、その階段を築いたのではないでしょうか」
「さあ……」艇長は、十年|前《ぜん》に探険に出かけた博士たちが今まで月世界に生きているものですかと云おうとして、やっと思いとどまった。「それならいいのですがねえ」
「あたしも御一緒に参りますわ。ああ嬉しい」
 そのとき進少年が、艇の底にある倉庫から上ってきた。
「艇長さん、食料品がすこし心細くなったよ。直ぐ引返すとしても、帰りの路は半分ぐらいに減食《げんしょく》しないじゃ駄目だ。ことに水が足りやしない。なにしろ一つの水槽《すいそう》の中に、記者の佐々おじさんが隠れていたんだものねえ。あはははッ」
 それを聞くと、猿田飛行士は、ギョロリと眼玉を動かした。
 艇はその間にだんだん下降して、とうとう真白な砂地《すなじ》にザザーと砂煙りをあげながら着陸した。
 ここに哀《あわ》れを止《とど》めたのは、密航者の佐々砲弾《さっさほうだん》だった。折角《せっかく》ここまでついて来たものの、艇長は彼が上陸することを許さなかった。砲弾という勇しい名をもった彼も、今更《いまさら》どうする力もなく、黙ってその命令を聞くより仕方がなかった。
 新宇宙艇の二重になった丸い出入口は、久方《ひさかた》ぶりで内側へ開かれた。一行四名はマスクをして艇長を先頭に外へ出ていった。
 丁度その上陸地点は、太陽の光を斜めに受けて、かなり気温は高い方だったのは意外だった。
 砂地に下りたって歩きだすと、身体に羽根が生えたようにフワフワと浮いた。それは地球とちがい、月の世界では引力がたいへん小さいせいだった。
 一行は、「危難の海」といわれる平原に見えた白い斑点をさして歩きだした。月には一滴《いってき》の水もない。だから地球から見ると海のように見えるところも、来てみれば何のことか、それは平原に過《す》ぎないのであった。さて一行のうち、猿田飛行士一人は、他の三人をズンズン抜いて、猛烈なスピードで前進していった。ミドリはさすがに女だけあって、とても猿田の半分のスピードも出ず、従《したが》って三人は一緒に遅れて、猿田との距離はみるみる非常に大きくなっていった。
 三人は慣れないマスクと、歩きにくい砂地とに悩みながら、三十分ほども歩いたが、そのとき、前方からキラキラと煌《かがや》くものがこっちへ近づいて来るのを発見した。
「あッ、誰かこっちへ来る。月の世界の生物じゃない
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