と、つづいて第二号室に足を踏み入れた三千子は、思いがけなく眩《まぶ》しい光の下に放りだされて、目がくらくらとした。
瞳をよく定めて、その部屋を見廻すと、なるほど、これは鬼仏洞へ来たんだなという気が始めてした。横へ長い三十畳ばかりのこの部屋には、中央に貴人《きじん》の寝台《しんだい》があり、蒼《あお》い顔をした貴人が今や息を引取ろうとしていると、その周囲にきらびやかな僧衣に身を固めた青鬼赤鬼およそ十四五匹が、臨終《りんじゅう》の貴人に対して合掌《がっしょう》しているという群像だった。像はすべて、等身大の彫刻で、目もさめるような絵具がふんだんに使ってあって、まるで生きているように見えた。
赤鬼青鬼の合掌は、一体何を意味するのであろうか。三千子は、気をのまれた恰好で、唖然《あぜん》としてその前に立っていた。
するとそのとき、どやどやと足音がして、一団の人が入ってきた。見ると、それは、逞《たくま》しい身体つきの、中年の中国人が六七名、いずれも袖の長い服に身を包んでいた。彼等は、三千子よりも遅れて、この鬼仏洞を参観に入ってきたものらしい。
「さあ、いよいよこれが鬼導堂《きどうどう》です。赤
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