く、さっと吹きこんだ。
それと同時に、俄《にわか》に騒々《そうぞう》しい躁音《そうおん》が、耳を打った。躁音は、だんだん大きくなった。それは、まるで滝壺の真下へ出たような気がしたくらいだった。
彼女は、おどろいて、音のする方を、振り返った。するといつの間にか、後に、出入口らしいものが開いていた。その口を通して、奥には、ぼんやりと明りが見えた。
(あ、なるほど、やっぱり第一号室へ通されるのだ!)
三千子は、脳裡《のうり》に、絹地《きぬじ》に画かれたこの鬼仏洞の部屋割の地図を思いうかべた。彼女は、今は躊躇《ちゅうちょ》するところなく、第一号室へとびこんだのであった。
その部屋の飾りつけは、夜明けだか夕暮だか分らないけれど、峨々《がが》たる巌《いわお》を背にして、頭の丸い地蔵菩薩《じぞうぼさつ》らしい像が五六体、同じように合掌《がっしょう》をして、立ち並んでいた。
轟々《ごうごう》たる躁音は、どうやら、この巌の下が深い淵《ふち》であって、そこへ荒浪《あらなみ》が、どーんどーんと打ちよせている音を模したものらしいことが呑みこめた。
第一号室は、たったそれだけであった。
何のことだ
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