女流探偵風間三千子の背筋に、氷のように冷いものが伝わった。
 なるほど、噂にたがわぬ怪奇に充ちた鬼仏洞である。ふしぎな改札者に迎えられただけで、はやこの鬼仏洞が容易ならぬ場所であることが分ったような気がした。
 だが、風間三千子は、もう訳もなく怖《お》じてはいなかった。彼女は、女ながらももう覚悟をきめていた。一旦ここまで来た以上、鬼仏洞の秘密を看破《かんぱ》するまでは、どんなことがあっても引揚げまいと思った。
 入口の重い鉄扉《てつど》は、人一人が通れるくらいの狭い通路を開けていた。三千子は、胸に番号札を下げると、その間を駆け足ですりぬけた。
 ぎーい!
 とたんに、彼女のうしろに、金属の軌《きし》る音がした。入口の重い鉄扉は、誰も押した者がないのに、早もう、ぴったりと閉っていた。
 ふしぎ、ふしぎ。第二のふしぎ。
 彼女は、しばらく、その薄暗い室の真中に、じっと佇《たたず》んでいた。さてこれから、どっちへいっていいのか、さっぱり見当がつかないのであった。その室には電灯一つ点《つ》いていなかった。が、まさか、囚人《しゅうじん》になったわけではあるまい。
 一陣の風が、どこからとな
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