巣箱《すばこ》の出入口のような穴へ差し入れた。
すると、入場券は、ひとりでに、奥へ吸い込まれたが、とたんに何者かが奥から、
「これを胸へ下げてください」
と云ったかと思うと、丸型の赤い番号札が例の穴から、ひょこんと出て来た。
(呀《あ》っ!)
そのとき、三千子の眼は、素早く或るものに注《そそ》がれた。それは、奥から番号札を押し出した変に黄色い手であった。それはまるで、蝋細工《ろうざいく》の手か、そうでなければ、死人《しびと》の手のようであった。
三千子は、とたんに商売気《しょうばいぎ》を出して、その手をたしかめるために、腰をかがめて、穴の中を覗《のぞ》きこんだ。
「呀《あ》っ!」
ぴーんと音がして、番号札が、発止《はっし》と三千子の顔に当るのと、がたんと穴の内側から戸が下りるのと同時であった。三千子は、地上に落ちた番号札を、急いで拾い上げたが、胸が大きく動悸《どうき》をうっていた。彼女は、戸の下りる前に、穴の内側を覗いてしまったのである。
(手首だった。切り放された黄色い手首が、この番号札を前へ押しだしたのだ。――そして“これを胸へ下げてください”と、その手首がものをいった!
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