いた。
(今の話は、あれはどうしても、鬼仏洞の話にちがいない。あと三十分すると、第三十九号室で、誰か人が死ぬのであろう。なんという気味のわるい知らせだろう。しかし、こんな知らせを受取るなんて、幸運だわ!)
三千子は、昂奮《こうふん》のために、自分の身体が、こまかに慄《ふる》えているのを知った。
(行ってみよう。時間はまだ間に合う。――もし鬼仏洞の話じゃなかったとしても、どうせ元々だ)
三千子の心は、既に決った。彼女は、南京豆売りの少年が、なぜそんなことを彼女に囁いたのかについて考えている余裕もなく、街を横切ると、鬼仏洞のある坂道をのぼり始めたのであった。
三千子が向うへ行ってしまうと、豆の山のかげから、一人の青年が、ひょっくり顔を出して、三千子の去った方角を見て、にやにやと笑った。
長身《ちょうしん》の案内者
見るからに、妖魔《ようま》の棲《す》んでいそうな古い煉瓦建《れんがだて》の鬼仏洞の入口についたのが、四時十五分過ぎであった。彼女は、こんなこともあろうかと、かねてホテルのボーイに手を廻して買っておいた紹介者つきの入場券を、改札口と書いてある蜜蜂《みつばち》の
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