停《とど》め、
「あんちゃん。おいしいところを、一袋ちょうだいな」
 といって、銀貨を一枚、豆の山の上に、ぽんと放った。
「はい、ありがとう」
 店番の少年は、すばやく豆の山の中から、銀貨を摘《つま》みあげて、口の中に放りこむと、一袋の南京豆を三千子の手に渡した。
「おいしい?」
「おいしくなかったら、七面鳥を連れて来て、ここにある豆を皆拾わせてもいいですよ」
 といってから、急に声を低めて、
「……今日午後四時三十分ごろに、一人やられるそうですよ。三十九号室の出口に並べてある人形を注意するんですよ」
 と、謎のような言葉を囁《ささや》いた。
 三千子は、それを聞いて、電気に懸《かか》ったように、びっくりした。
 もうすこしで、彼女は、あっと声をあげるところだった。それを、ようやくの思いで、咽喉の奥に押しかえし、殊更《ことさら》かるい会釈《えしゃく》で応《こた》えて、その場を足早に立ち去った。しかし、彼女の心臓は、早鉦《はやがね》のように打ちつづけていた。
 無我夢中で、二三丁ばかり、走るように歩いて、彼女はやっと電柱の蔭に足を停めた。腕時計を見ると、時計は、ちょうど、午後四時を指して
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