史が、鬼仏洞の調査に派遣せられることになったのである。
これが最後の御奉公と思い、彼女は勇躍大胆にも単身○○に乗りこんで、ホテル・ローズの客となった。まず差当《さしあた》りの仕事は、鬼仏洞の見取図を出して秘密の部屋割を暗記することだった。彼女はその見取図を、スカートの裏のポケットに忍ばせていた。
それから三日がかりで、彼女はようやく鬼仏洞の部屋割を、宙で憶《おぼ》えてしまった。これならもう、鬼仏洞を見に入っても、抜かるようなことはあるまいという自信がついた。
無理をしたため、頭がぼんやりしてきたので、彼女は、その日の午後、しばらく睡《ねむ》っていた。が、午後三時ごろになって、気分がよくなったので、起きて、急に街へ出てみる気になった。
その日は、土曜日だったせいで、街は、いつにも増して、人出が多かった。彼女は、いつの間にか、一等|賑《にぎや》かな紅玉路《こうぎょくろ》に足を踏み入れていた。
鋪道《ほどう》には、露店《ろてん》の喰べ物店が一杯に出て、しきりに奇妙な売声をはりあげて、客を呼んでいた。
三千子は、ふとした気まぐれから、南京豆《なんきんまめ》を売っている露店の前で足を
前へ
次へ
全33ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング