老が返事をした。しかし帆村は、長老がひそかに廻廊の柱に手をかけて、ちょっと押したのを見落しはしなかった。
(へんなことをしたぞ。とたんに照明がかわったところを見ると、あの柱に、照明をきりかえるスイッチがついているのかもしれない)
煌々たる青白《あおじろ》い光線が、室内を真昼のように照らしつける。水牛仏の顔が、一段と奇怪さを増した。
帆村探偵は、つかつかと水牛仏の方へ近づこうとしたが、そのとき、何に愕《おどろ》いたか、
「呀《あ》っ」
と、低く叫んだ。
「おい、その棒を貸せ」
帆村は、後を振返って、傍に立っていた番人の手から、棒を受取った。
「さあ、皆、僕に注意していてください」
そういったかと思うと、帆村は、その場に跼《かが》んだ。そして跼んだまま、そろそろと水牛仏の方へ歩きだした。
「この棒に注意!」
帆村は、跼んだまま棒を高く差上げた。そして、しずかに水牛仏の前に近づいていった。一同は、声をのんだ。
風間三千子だけは、帆村が何を見せようとしているかを感づいた。
ぴしり。
高い金属的な音がした。と思った刹那《せつな》、帆村の差上げていた棒は、真二つに折れた。なぜ棒が
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