、顔の倒れていた場所へ近よった。
「ほう、ちょうどこの水牛仏の前で、息を引取ったんだな。水牛仏に引導を渡されたというわけか。すると顔は、丑年生《うしどしうま》れか。ふふふん」
 帆村は、いつもの癖の軽口を始めた。そして手にしていた煙草を口に啣《くわ》えて、うまそうに吸った。
「おい、こら。煙草は許されないというのに。さっき、あれほど注意しておいたじゃないか」
 長老陳程が、顔を赤くして、とんできた。
「ほい、そうだったねえ」
 帆村は、煙草を捨てた。火のついた煙草は、しばらく水牛仏の傍《かたわら》で、紫煙をゆらゆらと高く、立ちのぼらせていた。
 そのとき帆村は、なぜか、その煙の行手に、真剣な視線を送っていた。


   幻影《げんえい》の静止仏《せいしぶつ》


(水牛仏がふりまわしているあの青竜刀は、本当に斬れそうだな。しかし、まさか顔子狗は、わざわざあそこへ首を持っていったわけではないのだ。こっちで斃《たお》れていたんだからなあ)
 帆村は、興味ありげな顔付で、じっと水牛仏が、右へ払った青竜刀を瞶《みつ》めた。帆村は、その青竜刀が、高さからいうと、ちょうど、人間の首の高さにあり、そ
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