れてはならない。第二、煙草をすってはならない。第三に……」
「そんなことは常識だ。さあ、現場へ案内してください」
一同は、やがて問題の第三十九号室に、足を踏み入れた。
室内の様子は、前と同じで室内には例の赤色灯《せきしょくとう》が点《つ》いていた。ただ、顔子狗の斃《たお》れていたところには、白墨《はくぼく》で人体《じんたい》と首の形が描いてあることが、特筆すべき変り方であった。三千子は、あの日のことを、まざまざと思い出した。あやしい振動が、足の裏から、じんじんじんと伝《つたわ》ってくるような気がした。
「……顔《がん》の自殺死体のあったのは、あそこだ。われわれは四五メートル離れたこのへんに固《かたま》っていた。これは、お前方の提供した写真にも、ちゃんとそのように出て居る」
陳程長老は、手にしていた白墨で、欄干《らんかん》の下に、大きな円《まる》を描いて、
「こんなに遠くへ離れていて、顔の首を斬ることは、手品師にも、出来ないことじゃ。それとも出来るというかね。はははは」長老は、勝ち誇ったように笑った。
帆村探偵は、別に周章《あわ》てた様子も見せなかった。彼は、長老の方に尻を向けて
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