もうろうろしていた。
いよいよ交渉が始まった。
相手方から、背のひょろ高い一人の委員が、一番前にのりだしてきて、
「わしは、この鬼仏洞の長老で、陳程《ちんてい》という者だ。お前さん方は、この鬼仏洞の治安が乱れているとか、中で善良な市民が謀殺《ぼうさつ》されたとか、有りもしないことを、まことしやかにいいだして、わが鬼仏洞にけちをつけるとは、怪《け》しからん話だ」
と、始めから、喧嘩腰であった。
三千子は、後から、その長老陳程と名乗る男の顔を一目見たが、胸がどきどきしてきた。この長老こそ、先日顔子狗たちを連れて各室を廻っていた莫迦笑いの癖《くせ》のある案内役であることを確認したからである。
彼女は、そのことを帆村にそっと告げようとしたが、その前に帆村は、前へとび出していた。
「やあ、陳程委員さん、私は帆村委員ですがね、こんなところで押し問答をしても仕方がない。現場《げんば》へいって、常時の模様をよく説明してください」
「現場かね。現場は、ちゃんと用意ができている。すぐ案内をするが、あなた方は、洞内《どうない》の規定を守ってもらわなければならん。第一、わしの許可なくして、物に手を触
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