ですがねえ」
「あら、あんなことを……」
「いや、遠慮なさることはいらない。何しろあの場合の、咄嗟の撮影の早業《はやわざ》なんてものは、人間業じゃなくて、まず神業《かみわざ》ですね」
「おからかいになってはいや。で、帆村さんは、政府側の委員のお一人でしょうが、どんなお役柄ですの」
「僕ですか。僕はその、戦争でいえば、まあ斥候隊《せっこうたい》というところですなあ」
「斥候隊は、向こうへいって、どんなことをなさいますの」
「そうですねえ。要するに、斥候隊で、敵の作戦を見破ったり、場合によれば、一命《いちめい》を投げだして、敵中へ斬り込みもするですよ」
「まあ、――」
といったが、三千子は、帆村の身の上に、不吉な影がさしているように感じて、胸が苦しくなった。
鬼気《きき》せまる鬼仏洞内での双方の会見は、お昼前になって、ようやく始まった。尤《もっと》も明り窓一つない洞内では昼と夜との区別はないわけである。
○○権益財団側からは、やはり同数の八名の委員が出席したが、その外に、前には姿を見せなかった鬼仏洞の番人隊と称する、獰猛《どうもう》な顔付の中国人が、太い棒をもって、あっちにもこっちに
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