府側の委員五名が、特務機関へ挨拶《あいさつ》かたがた寄ったが、三千子は、その委員の一人を見ると、抱えていた花瓶《かびん》を、あわや腕の間からするりと落しそうになったくらいであった。
「まあ、あなたは帆村《ほむら》さんじゃありませんか」
帆村というのは、東京丸の内に事務所を持っている、有名な私立探偵|帆村荘六《ほむらそうろく》のことであった。彼は、理学博士という学位を持っている風変りな学者探偵であって、これまでに風間三千子は、事件のことで、いくど彼の世話になったかしれなかった。殊《こと》に、仕事中、彼女が危《あやう》く生命《せいめい》を落しそうなことが二度もあったが、その両度とも、風の如くに帆村探偵が姿を現わして、危難から救ってくれたことがある。
そういう先輩であり、命の恩人でもある帆村が、所もあろうに、大陸のこんな所に突然姿を現わしたものであるから、三千子が花瓶を取り落としそうになったのも、無理ではない。
帆村は、にこにこ笑いながら、彼女の傍へよってきた。
「やあ、風間さん、大手柄をたてた女流探偵の評判は、実に大したものですよ。それが私だったら、今夜は晩飯を奢《おご》ってしまうん
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