ざ》であった。職務上の責任感が、咄嗟《とっさ》の場合に、この大手柄をさせたものであろう。
 だが、彼女は、さすがに女であった。顔子狗の身体が、地上に転ってしまう、とたんに、気が遠くなりかけた。
 もしもそのとき、後から声をかけてくれる者がいなかったら、女流探偵は、その場に卒倒《そっとう》してしまったかもしれないのだった。
 だが、ふしぎな早口の声が、彼女の背後から、呼びかけた。
「おっ、お嬢さん、大手柄だ。しかし、早くこの場を逃げなければ危険だ」
「えっ」
 三千子は、胆《きも》を潰《つぶ》して、はっと後をふりかえった。しかし、そこには誰も立っていなかった。いや、厳密にいえば、青鬼赤鬼が、衣《ころも》をからげて、田を耕している群像が横向きになって立っていたばかりであった。
 だが、どこからかその声は又言葉を続けるのであった。
「お嬢さん。おそくも、あと五分の間に、裏口へ出なければだめだ。知っているでしょう、近道を選んで、大急ぎで、裏口へ出るのだ。扉《ドア》が開かなかったら、覗《のぞ》き窓の下を、三つ叩くのだ。さあ急いで! 彼奴《きゃつ》らに気がつかれてはいけない!」
 その早口の中国語
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