は、どこやら聞いたことのある声だった。だが彼女は、それを思い出している遑《いとま》がなかった。
「ありがとう」一言礼をいうと、彼女は、一旦後へ引きかえし、宙で憶えている近道をとおって、一目散《いちもくさん》に裏口へ走った。そして扉をどんどんどんと叩いて、ようやく鬼仏洞の外へ飛び出すことが出来た。
空は、夕焼雲に、うつくしく彩《いろど》られていた。彼女は、鬼仏洞に、百年間も閉じこめられていたような気がした。
帆村探偵登場
特務機関長が、最大級の言葉でもって、風間三千子の功績を褒《ほ》めてくれたのは、もちろん当然のことであった。
「ああ、これで新政府は、正々堂々たる抗議を○○権益財団に向けて発することができる。いよいよ敵性第三国の○○退却の日が近づいたぞ」
そういって、特務機関長は、はればれと笑顔を作った。
「抗議をなさいますの。鬼仏洞は、もちろん閉鎖されるのでございましょうね」
「やがて閉鎖されるだろうねえ。しかし、今のところ、抗議をうちこむため、鬼仏洞は大切なる証拠材料なんだ。現場《げんじょう》へいった上で、あなたが撮影した顔子狗《がんしく》の最期の映画をうつして見
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