てきた。見れば、それは先程の五六人連れの中国人たちであったではないか。
(やっぱり、そうだった)
三千子は、心の中に肯《うなず》いた。部屋部屋を、順序正しく廻ってくれば、この一行は、まだもっと遅れ、二三十分も後になって、この部屋へ巡《めぐ》ってくる筈だった。ところが、例の不吉《ふきつ》な定刻《ていこく》にわざわざ合わせるようにして、この第三十九号室へ入ってきたというところから考えると、いよいよこの中の誰かが、死の国へ送りこまれるらしい。これは自然な人死《ひとじに》ではなく、たしかにこれは企《たく》まれたる殺人事件が始まるのにちがいないと、風間三千子は思ったのであった。
一行が、この部屋に入り、人形の方に気をとられている間に、三千子は、入口をするりと抜け、その一つ手前の隣室、つまり第三十八号室へ姿を隠したのだった。そして入口の蔭から、第三十九号室の有様を、瞬《まばた》きもせず、注視《ちゅうし》していた。
「これは、水牛仏が、桃盗人《ももぬすびと》を叩き斬ったところですよ。はははは」
案内役は、とってつけたように笑う。
「水牛仏はこの人形だろうが、桃盗人が見えないじゃないか」
と、
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