一行の中の、布袋《ほてい》のように腹をつきだした中国人がいった。
「や、こいつは一本参った。この鬼仏洞のいいつたえによると、たしかにこの水牛仏が、青竜刀《せいりゅうとう》をふるって、桃盗人の細首をちょん斬ったことになっとるのじゃが、どういうわけか、始めから桃盗人《ももぬすびと》の人形が見当らんのじゃ」
「それは、どういうわけじゃ」
「さあ、どういうわけかしらんが、無いものは無いのじゃ」
「こういうわけとちがうか。この鬼仏洞の中には、何千体か何万体かしらんが、ずいぶん人形の数が多いが、桃盗人の人形は、どこかその中に紛《まぎ》れこんでいるのと違うか」
「あー、なるほど。なかなかうまいことをいい居ったわい。はははは。しかしなあ、紛れ込んどるということは、絶対にない。もう何十年も何百年も、毎日毎日人形の顔はしらべているのじゃからなあ。それに、その桃盗人の人形の人相書というのが、ちゃんとあるのじゃ」
「本当かね」
「本当じゃとも、その桃盗人の人相は、まくわ瓜《うり》に目鼻をつけたる如くにして、その唇は厚く、その眉毛は薄く、額《ひたい》の中央に黒子《ほくろ》あり――と、こう書いてあるわ。まるで、そ
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