る身体の大きな僧形《そうぎょう》の像が、片足をあげ、長い青竜刀《せいりゅうとう》を今横に払ったばかりだという恰好をして、正面を切っているのであった。人形はそれ一つであった。この人形の前を通りぬけると、すぐその向うに次の部屋へいく入口が見えていた。
(この室で、やがて誰か死ぬって、本当かしら)
 と、三千子は、桃の木の傍《そば》で、首をかしげた。一向そんな血醒《ちなまぐさ》い光景でもなく、青竜刀を横に払って大見得《おおみえ》を切っている水牛僧の部が、むしろ間がぬけて滑稽《こっけい》に見えるくらいであった。いくぶん不安な気を起させるものといえば、この部屋の照明が、相当明るいには相違ないが、淡《あわ》い赤色《せきしょく》灯で照明されていることであった。
 そのときであった。隣室に人声が聞え、つづいて足音が近づいて来た。
(いよいよ誰か来る)
 時計を見ると、もう二三分で、例の午後四時三十分になる。すると、今入ってくる連中の中に死ぬ人が交《まじ》っているのであろう。三千子は、その人々に見られたくないと思ったので、人形と反対の側の入口の蔭に、身体をぴったりつけた。
 すると、間もなく見物人は入っ
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