したいらしいね。はっはっはっ」
 といって、愉快そうに笑った。


   上昇|延刻《えんこく》


 その「火の玉」少尉は、その夜の九時、帝都北東地区の○○陣地において、繋留《けいりゅう》気球に乗りこんだ。そのころ意地わるく南よりの風がかなりはげしく吹きだして、地上に腹匍《はらば》っているような恰好の気球はもくもくと揺れていた。
 はじめは、この気球の下のゴンドラに、六名の者が乗りこむことになっていたが、いよいよという時になって、ただひとり「火の玉」少尉だけが乗ることとなった。
「一体どうしたのか。まさか怖《お》じ気《け》がついたのでもあるまいに」
 と、彼は笑った。
「いや六条さん。班長さんはじめ幹部の連中が、いま手が放せなくなったのですよ。貴方《あなた》もついでに、見合せなすったらどうですかね」
 警防団の庶務係の老人がいった。
「私は予定どおり乗りますよ。風が吹いていようが、敵機は来ようと思えば来るんだからね」
「いえ、風――風がはげしいからどうのこうのというのではなくて、なんでもこの○○陣地の裏手の垣《かき》のところを、怪しい人物が二三人うろついていたという話ですよ。それで班
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