するのであります」
「夜、見えるか」
「はい、午前三時に月が出るのであります。それまではE式|聴音器《ちょうおんき》で、敵機のプロペラの音を探知します」
「ふむ、それは御苦労なことだ。では、しっかり頼むぞ」
田毎大尉は、障害者となっても燃えるような戦闘精神が「火の玉」少尉の胸に宿っているのを知って、大いにうたれた。
その「火の玉」少尉は、田毎大尉と旧友戸川中尉との前を辞するときに、一段とかたちを改《あらた》め顔面を朱盆《しゅぼん》のごとに赫《あか》くして、
「でありますが、この六条は、一日も早く原隊復帰を許され、例の××軍トーチカ集団攻撃に、ぜひとも一番駈けをいたし、そこに屍《しかばね》をさらしたいと考えておるのでありますから、この点お忘れなく、御両所の不断の御骨折《おほねおり》を切望いたします」
儼然《げんぜん》といい放って、「火の玉」少尉は廻れ右をして帰っていった。
後を見送って、田毎大尉は戸川中尉と顔を見合し、
「やっぱり『火の玉』少尉だ。はじめは原隊復帰を諦《あきら》めたのかと思ったが、いまの言葉では、どうしてどうして、先生なにがなんでも××軍トーチカ集団の真中で戦死を
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