空中漂流一週間
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)田毎《たごと》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)六条|壮介《そうすけ》
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   「火の玉」少尉


「うーん、またやって来たか」
 と、田毎《たごと》大尉は、啣《くわ》えていた紙巻煙草をぽんと灰皿の中になげこむと、当惑《とうわく》顔で名刺の表をみつめた。前には当番兵が、渋面《じゅうめん》をつくって、起立している。
 ここは帝都に近い××防衛飛行隊本部の将校集会所だった。
「ほう、大尉どの。誰がやって来たのでありますか」
 一週間ほど前に、この飛行隊へ着任したばかりの戸川中尉が、電話帳を繰る手を休め、上官の方に声をかけた。
「うむ、例の『火の玉』少尉が、またやって来たのだ」
「えっ、『火の玉』少尉?」
 といって、戸川中尉は眉を高くあげ、
「ああ六条のことですな。あの六条のやつは、こっちにいましたか」
 戸川中尉は、少年のように眼をかがやかせ、入口の方をふりかえった。しかしそこには、誰の影も見えなかった。
 そもそもこの「火の玉」少尉とよばれる六条|壮介《そうすけ》と戸川中
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