尉とは、同期生だったのだ。そして嘗《かつ》ては、ソ満国境を前方に睨《にら》みながら、前進飛行基地のバラックに、頭と頭とを並べて起伏《おきふ》した仲だった。
この二人は、無二の仲よし戦友だったけれど、二人の性格は全くあべこべだった。戸川中尉が飛行将校にもってこいの細心で沈着な武人であるのに対し、六条の方はその綽名《あだな》からでも容易に察せられるごとく、満身これ戦闘力といったような感じのする頗《すこぶ》る豪快な将校だった。それで二人は、よく仲のよい悪口《あっこう》を叩きあったものだ。
「なんだ、貴様は。貴様みたいに、数値ばかり気にやんでいると、数値以上の勝利をあげることなんかできやせんぞ」
と六条壮介がからかえば、戸川は戸川で、
「莫迦《ばか》をいうな。貴様みたいに、戦闘をはじめる途端に数値のことを忘れてしまうようじゃ、どうせ碌《ろく》でもない敵兵に横腹《よこっぱら》を竹槍《たけやり》でぶすりとやられるあたりが落ちさ」
と、やりかえすのであった。しかしその実、この二人の将校は、互いに相手の長所を尊敬しあっていたのだ。
真逆《まさか》この戸川の言葉が讖《しん》をなしたわけでもなかろ
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