うが、六条|壮介《しょうすけ》のうえにとつぜん不幸な事件が降って来て、彼は第一線を退かなければならないこととなった。
 その不幸な事件というのは、或る日彼が、ソ連空軍の爆撃の跡を視察するため、崩れかかった家屋の前に立っていたとき、そこへ急カーヴを切り輜重《しちょう》隊のトラックが驀進してきた。呀《あ》っといって彼が身をさけた途端に、トラックの運転をしていた兵隊が未熟のためか周章《あわ》ててハンドルを切り間違え、あべこべにトラックは半壊家屋の支柱に衝突し、轟然《ごうぜん》たる音響とともに、とうとうその半壊家屋を潰してしまった。そこで屋内へ避けた六条少尉は、不運というか細心の注意を缺いていたというか、その下敷となった。さっそく全員総がかりで、少尉の身体を掘りだしたが、なかなかの重傷で生命のあったのがふしぎなくらいだった。結局そのとき以来、「火の玉」少尉は右腕の自由を失ってしまい、野戦病院に退いて、ついに右腕を上膊《じょうはく》から切断してしまったのである。
 片腕なくなったのでは、「火の玉」少尉は再び飛行機を操縦することができない。そこで第一線から後送ということになったが、「火の玉」少尉は
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